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2025.10.30

カーボンフットプリント(CFP)算定のための「排出原単位データベース」について解説

近年、地球温暖化を含む気候変動問題に対応するために、各国や企業はCO₂などの温室効果ガス(以下GHG)排出量を可視化し、削減に向けた努力を続けています。その中で、製品やサービスが環境に与える影響を測定する指標であるカーボンフットプリント(Carbon Footprint of Products 以下CFP)算定の重要性が高まっています。

CFPは、製品の各ライフサイクルにおける「活動量」と「排出原単位」を掛け合わせた値を合算することによって算出されます。この「排出原単位」の計算においては、各国によって取りまとめられた「排出原単位データベース」に基づく値が使用されます。

本記事では、CFP算定を行う上で必要となる「排出原単位データベース」に関する基本的な知識から、国内外で使用されているデータベースの種類と各種の特長までを分かりやすく解説します。

排出原単位とは

排出原単位は排出係数とも呼ばれ、ある活動量あたりのCO₂排出量のことを指しています。つまり、電気の使用量や貨物の輸送など、ある活動量一単位あたりにどれだけのCO₂排出量が排出されるのかを示す数値のことです。

具体的に排出原単位では、1kWhの電力を発電した際に排出されたCO₂排出量、1kmの輸送距離の移動で排出されたCO₂排出量、重量1tあたりを生産する際に発生するCO₂排出量、といった単位当たりのCO₂排出量が用いられています。

これらの排出原単位に、各事業活動の規模を数値化した「活動量」(経済活動の利用した電気使用量、トラックの走行に伴う燃料使用量等)を掛け合わせることで、製品のライフサイクルごとのCO₂排出量の算定ができます。そして、それらのライフサイクルごとのCO₂排出量を合算することで、CFP値が算出されます。

出典:環境省の資料を参考にBIPROGYが作成
https://www.env.go.jp/earth/ondanka/supply_chain/gvc/files/tools/supply_chain_201711_all.pdf

排出原単位データベースについて

排出原単位データベースとは、特定の活動や製品に対するCO₂排出原単位をまとめた情報源のことです。つまり、排出原単位を一覧でまとめたものが排出原単位データベースです。

CO₂排出量やCFPを算定するためには、取引先から排出量の実測値を受け取る方法(一次データの利用)と、自社内で活動量を収集し排出原単位を掛け合わせる方法(二次データの利用)の2種類があります。
一般的に、算定精度を高めるためには、可能な限り一次データを利用することが望ましいとされています。しかし、製品の輸送に伴う排出量や電力使用に関する情報を取引先から収集することは、決して容易ではありません。
このような背景から、企業の負担とコストを抑えつつサプライチェーンの排出量を算出するために、排出原単位のデータベースが活用されています。

排出原単位データベースの種類と特長について(IDEA・ecoinvent・3EID)

企業がCO₂排出量を算定する際に利用できる排出原単位データベースは、大きく分けて「積み上げベース」と「産業連関表ベース」の2種類があります。ここからは、排出原単位データベースの種類とそれぞれの特長について紹介します。

(1)積み上げベースの排出原単位
積み上げベースの排出原単位は、製品やサービスのライフサイクル全体を考慮し、各段階で投入された資源・エネルギーと廃棄物を物量ベースで集計する方法です。各工程で発生するインプットとアプトプットの情報をまとめて確認できるため、環境負荷の原因とその実態を明らかにすることができます。一方、データの収集にコストや負担がかかってしまうことがデメリットです。

積み上げベースの排出原単位データベースには、IDEAやecoinventがあります。
以下にそれぞれの特長について記載しました。

●IDEA
産業技術総合研究所と産業環境管理協会の共同開発によって作成された、日本国内のLCA実施に適したデータベースです。高い網羅性・完全性・代表性・透明性を目的に開発されており、どのような製品でも必ず何らかのデータを参照できるようにしていることが大きな強みです。

IDEAの主な特長としては、以下の通りです。
・日本国内、約5,000種類の全ての製品・サービスを対象にした高い網羅性
・地球温暖化や酸性化、オゾン層破壊、水資源消費、土地利用など940以上の基本フローで主要影響領域を広くカバー
・約5,000以上のデータセット数を保持しているため、非常に細かい解像度でLCA実施者の負担を大幅に軽減
・階層構造を取ることで、どのような製品でも何らかのデータを提示可能
・全データセットを「日本標準産業分類」を中心とした分類コード体系で整理
・GHGprotocolのThirdPartyDatabasesとして登録されているなど、国際的にも高い認知度を誇る

出典:一般社団法人サステナブル経営推進機構(SuMPO)「LCIデータベースIDEA」
https://sumpo.or.jp/consulting/lca/idea/

●ecoinvent
スイスの研究所等によって作成され、NPO法人によって運営されているグローバルサプライチェーン対応のデータベースです。多様な国と部門を含む海外のデータベースとして、欧米を中心に広く使われています。データセットは複数の専門家のレビューを受けているため信頼性が高く、透明性の高い国際的なインベントリデータの提供を目的に開発が行われています。

ecoinventの主な特長としては、以下の通りです。
・欧州を中心としたグローバル規模で信頼性の高いデータを公開
・地域特性を考慮したデータの提供があるため、特定の地域における環境影響をより正確に評価可能
・定期的なデータ更新が行われるため、最新の技術やプロセスに対応したデータを提供
・約20,000を超える多様なデータセットを保持し、幅広い分野をカバー
・世界一のユーザー数を抱え、特にアカデミアで高いシェア率を誇る
・ISOの国際規格に準拠しており、多くのLCAソフトウェアとの互換性あり

(2)産業連関表ベースの排出原単位
産業連関表とは、社会の様々な財やサービスを分類し、それらの相互関係を表したものです。この表を用いて、各産業の活動量と排出原単位を掛け合わせることで、全体の排出量を推計することができます。約500項目の産業連関表を使用し、部門間の金額ベースのやり取りを参考にしているため、環境影響の全体像を把握できることが特長です。
一方、産業分類ごとのデータであるため、積み上げベースの排出原単位と比較すると粒度が粗く、精度が落ちてしまうことがデメリットです。

産業連関表ベースの排出原単位データベースには、3EIDがあります。
以下に特長を記載しました。

●3EID
国立環境研究所が開発を行っており、日本の産業連関表で算出した原単位を一覧にまとめたデータベースです。各部門の単位生産活動によって発生する環境負荷量を確認でき、生産プロセスにおける直接的な排出だけではなく、サプライチェーン全体の間接的な排出量も把握することができます。

3EIDの主な特長としては、以下の通りです。
・単位は「t-CO₂/百万円」で表現され、100万の生産活動あたりに発生する環境負荷量を図ることができる
・生産プロセスにおける直接的および間接的な排出量も合計して算出可能
・製品やサービスのライフサイクル全体における環境負荷を把握
・無償ツールのため算出結果に誤差が生じることもあるので、大まかな数値を算定したい際に適切

化学品向けCFP算定支援サービス「EcoLume®」とは?

本記事では、CFP算定において必要となる「排出原単位データベース」に関する基本的な知識から、国内外で使用されているデータベースの種類と各種の特長を説明しました。

排出原単位データベースは、ある活動量あたりのCO₂排出量である排出原単位を一覧にまとめたものであり、サプライチェーンの排出量およびCFPを算出するために、今後より広く利用されていくことが予測されます。排出原単位データベースの活用していくために、まず排出原単位データベースの基本を確認し、自社の算定目的にあったデータベースの利用を検討していくことが第一ステップとなるでしょう。

BIPROGYでは2025年1月に、一般的に算定が難しいとされる化学品に特化したCFP算定支援サービスの「EcoLume®」を開発しました。
「EcoLume®」は、お客様が抱えている多種多様な課題に対して、①算定支援コンサルティングサービス、②算定業務代行サービス、③算定システム、の3種類のサービスを展開することで、それぞれのお客様に最適なご提案を実現します。
特に、①の算定支援コンサルティングサービスでは、排出原単位に関する詳細説明や本記事内で紹介した排出原単位データベースのIDEAを使いこなすためのコツ等を詳しくレクチャーいたします。また③の算定システムには、IDEAとの排出係数の自動マッチング機能を搭載しているため、お客様の負担やミスを減らすことができるものになっています。

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