CFPに対する欧州規制の影響と日欧データスペースのサプライヤ連携

2025年夏は、日本の統計開始以来最も暑い夏となり、国内観測史上最高の41.8度を記録し、猛暑日地点数が過去最多となりました。世の中の大きな方向性として、地球温暖化対策・脱炭素対策・環境負荷軽減・循環型経済への取組みは、今後さらに進んでいくことになります。自分たちができる小さな一歩からはじめてみませんか。みんなで力を合わせることが重要です。
近年、欧州でカーボンニュートラルやCFP(カーボンフットプリント)の取組みが進んでいます。規制や法律の義務化は当初計画よりも少し先延ばしとなっています。これらの社会課題は一企業だけで対応できるものではなく、国・業界・企業の壁を超えて、サプライチェーン全体で取組む必要があります。そのためのデータ連携の新しい枠組み「データスペース」が必要となり、実証実験などを通じて開発が進んでいます。
この記事ではCFP表示に対する欧州の規制や法律の影響範囲と、サプライヤ連携の必要性を述べ、データ連携のための欧州・日本のデータスペースを紹介します。
この記事で分かること
✓欧州電池規則から波及する日本企業のCFP表示
✓国・業界・企業の壁を越えたサプライチェーン全体での取組み
✓サプライヤー間のデータ連携を支えるデータスペース開発
✓はじめの一歩としてEcoLumeではじめてみませんか
欧州電池規則から波及する日本企業のCFP表示
すでに欧州でカーボンニュートラルやCFPの取組みが進んでいます。2019年に始まった欧州グリーンディールは、2050年までにカーボンニュートラルを達成し、脱炭素と経済成長の両立させることを目指す政策です。欧州グリーンディールのひとつとして、欧州電池規則があります。2023年に発行された欧州電池規制は、CFP表示義務、責任ある材料調達、回収・リサイクル義務、リサイクル率の向上などの規定を設け、環境負荷低減を目指しています。EU内を流通するすべての電池を対象です。2024年4月に欧州電池規則の委任法案の付属書が公開され、その中で2025年2月、または、委任法の発行から12ヶ月のうち遅いほうから、CFP算定とCFP開示の義務化を開始すると記載されました。2025年10月現在、委任法が未だ発行されておらず、議論が継続していると思われます。
欧州電池規制に基づいて電池パスポートがあります。材料調達、製造、販売、リサイクルまでのサプライチェーン全体のトレーサビリティをデジタル化し、リサイクルや循環型経済への移行を目指しています。電池パスポートでもCFP表示が扱われており、2025年から電気自動車のEV用電池のCFP表示義務が開始される計画でしたが遅延しています。もちろん、欧州へ製品や関連部品を輸出する日本国内の企業にも影響があり、今後は対応する必要があります。
欧州電池規則は日本企業にも影響があり、CFP算定しないと欧州で製品を販売・流通させることが出来なくなる可能性があります。自社だけでなくサプライチェーン全体で影響を受けるため、サプライヤ間のデータ連携やCFP算定連携が必要となります。下流サプライヤからCFP開示を求められてもすぐに対応することは困難です。規制や法律の発行を待たずに、準備を開始する必要があります。電気自動車のEV用電池の原材料を製造している化学メーカーも対応を迫られる日が近いです。また、CFP算定結果のみのGHG排出量を示すだけにとどまらず、算定元になるデータの品質や収集方法、リサイクル材とバージン材の割合など算定に至るプロセスのドキュメント化も求められます。明日すぐにCFP算定結果とCFP算定レポートを求められても対応しきれません。繰り返しますが、いますぐに準備を始めることが大切です。
さらに、欧州のエコデザイン規制(ESPR)は、耐久性やリサイクル性などを高め環境負荷の軽減を目指して、2024年に施行された法律です。デジタル製品パスポート(DPP)を導入し、売れ残りの破棄を禁止します。EUで販売されるほぼすべての製品が対象で、CFP表示も必要となります。具体的な対象は、鉄鋼、アルミニュウム、遷移、家具、タイヤ、マットレスからはじまり、プラスチックや化学製品に広げる計画です。DPPは、製品寿命、廃棄方法、リサイクル比率、CFP、水使用量、化学物質資料などがデジタルデータ化され、QRコードなどから簡単に確認できる仕組みです。
参考資料:
欧州委員会 欧州電池規制(EU Battery Regulation) https://environment.ec.europa.eu/topics/waste-and-recycling/batteries_en
Global Battery Alliance 電池パスポート(Battery Passport) https://www.globalbattery.org/battery-passport/
欧州委員会 エコデザイン規制(ESPR Ecodesign for Sustainable Products Regulation) https://commission.europa.eu/energy-climate-change-environment/standards-tools-and-labels/products-labelling-rules-and-requirements/ecodesign-sustainable-products-regulation_en
欧州委員会 デジタル製品パスポート(DPP Digital Product Passport) https://hadea.ec.europa.eu/document/download/e4327671-effe-4432-b072-fc384df79100_en?filename=DEP%20Call%204%20-%20Digital%20Prodcut%20Passport.pdf
国・業界・企業の壁を越えたサプライチェーン全体での取組み
欧州の規制や法律は、サプライチェーン全体が連携して取組む必要があり、1社だけでは対応しきれません。例えば、CFP算定において、川上のサプライヤのCFP算定結果を使って川中の製品のCFP算定を行い、その結果をさらに川下の製品に繋げていくことで、より正確なCFP算定の結果を連携することが出来ます。また、データ連携することで、各企業でのCO₂削減努力が業界全体のCO₂排出量全体に影響を及ぼすことになります。欧州の規制や法律は、EV電池や自動車業界が先行しています。今後、CO₂排出量が比較的多く、製品が自動車の部品として使用される化学業界にも広がる可能性が高いです。環境負荷軽減や循環型経済を目指して、データのトレーサビリティやその信頼性が必要となります。
企業間のデータ連携において、データファイルを電子メールに添付してやりとりする、ファイルサーバで共有するのでは限界があります。そこで、複数の国や業界、複数企業を横断し全体で利用可能な「データスペース」が必要となります。データスペースは複数の組織やシステムが独立性を保ちながら、安全で効率的にデータを共有する技術です。さらに法制度、ビジネス、コンセプト、ビジョンを含めたプラットフォームです。
データスペースとして、欧州ではGAIA-X(ガイア-X)・Catena-X(カテナ-X)・Chem-X(ケミカル-X)、日本ではOuranos Ecosystem(ウラノス・エコシステム)・デジタルエコシステム官民協議会の産業データスペースなどの開発や実証実験、実用化に向けた取組みが進んでいます。
サプライヤー間のデータ連携を支えるデータスペース開発
2019年に設立されたGAIA-Xは、ドイツ・フランスを中心とした欧州企業が、米国大手プラットフォーマに対抗するために、自律分散型の企業間データ連携基盤するためのフレームワークです。データ提供者の主権とプライバシーの保護にも力を入れています。
2021年に設立されたCatena-Xは、GAIA-Xの応用プロジェクトの一つです。ドイツの複数の自動車企業が、自動車業界全体のサプライチェーン全体のデータ連携を目指して、具体的なアプリケーションやサービスを提供しています。目的は、サプライチェーン全体の効率化、CO₂排出量を共有し持続可能性の向上、産業全体の競争力強化です。
2024年に開始されたChem-Xは、Catena-Xと同様GAIA-Xの応用プロジェクトの一つです。ドイツ大手化学製造企業などが中心となり、化学業界全体のサプライチェーン全体のデータ連携を目指して、今後、具体的なアプリケーションやサービスを提供しようとしています。Catena-Xと同様、Chem-Xの目的は、サプライチェーン全体の効率化、CO₂排出量を共有し持続可能性の向上、産業全体の競争力強化です。
2023年に立上げられたOuranos Ecosystemは、経済産業省を中心に、欧州のGAIA-Xなどのデータ連携基盤や米国大手プラットフォーマーの動きを受けて、ハイブリッド型のデータスペースを目指しています。欧州のデータスペースとデータ連携も行っています。2024年にOuranos Ecosystem上で、自動車・蓄電池のカーボンフットプリントおよびデューデリジェンスのデータ連携サービスが提供されました。2025年に製品含有化学物質・資源循環情報プラットフォーム(CMP)の開発が開始されました。CMPは、その名の通り、製品含有化学物質をサプライチェーン全体で管理し規制変更への迅速な対応が可能になり、リサイクルやリユースを推進し循環型経済にも応用することができます。
さらに、2025年に設立されたデジタルエコシステム官民協議会は、デジタル庁や経団連が中心となり、産業データスペースの構築を目指しています。目的は、ビジネス機会を広げ、活用事例を数多く生み出すことです。
参考資料:
GAIA-X https://gaia-x.eu/
Catena-X https://catena-x.net/
Manufacturing-X https://www.plattform-i40.de/IP/Navigation/EN/Manufacturing-X/Manufacturing-X.html
Chem-X https://www.chem-x.de/
経産省 Ouranos Ecosystem(ウラノスエコシステム) https://www.meti.go.jp/press/2023/04/20230429002/20230429002.html
経団連 デジタルエコシステム官民協議会 https://www.keidanren.or.jp/announce/2025/0620.html

はじめの一歩としてEcoLumeではじめてみませんか
この記事ではCFPに対する欧州の規制や法律の影響範囲と、日本・欧州のデータスペースとサプライヤ連携を紹介しました。今後、国・業界・企業の壁を超えてデータ連携やサプライヤ連携していくことになります。連携を進めるために、自社製品のCFP算定をはじめることが、欧州規制に対しての最初の一歩となります。もし、CFP算定の知見や人的リソースが無い、化学業界特有のプロセスが難しい、作業負担が大きく手が回らないなど、CFP算定に関わるお悩みがあれば、化学品向けCFP算定支援サービス「EcoLume」で始めてみてはいかがでしょうか。
BIPROGYでは2025年1月に、一般的に算定が難しいとされる化学品に特化したCFP算定支援サービスの「EcoLume®」を開発しました。「EcoLume®」は、お客様が抱えている多種多様な課題に対して、①算定支援コンサルティングサービス、②算定業務代行サービス、③算定システム、3種類のサービスを展開することで、それぞれのお客様に最適なご提案を実現します。ご連絡お待ちしております。