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コラム

2025.12.22

宇宙から見た地球規模での温室効果ガス(GHG)モニタリング

新語・流行語大賞のトップテンに、「二季(にき)」が選ばれました。2025年夏は、日本の統計開始以来最も暑い夏となり、国内観測史上最高の41.8度を記録し、猛暑日地点数と40℃以上地点数が過去最多となりました。地球温暖化対策・脱炭素対策は喫緊の課題と言えます。カーボンニュートラルやCFP(カーボンフットプリント)の取組みは、これまでのコラムでもご紹介したとおりです。

今回のコラムは、国・企業・製品ごとのCFPを計算して積上げる方法でなく、地球規模の温室効果ガス(GHG)が、増加傾向あるいは減少傾向なのかを把握する方法のお話です。この記事では、宇宙から見た地球規模での温室効果ガス(GHG)モニタリングのひとつとして、日本の人工衛星「いぶき」と、その温室効果ガス(GHG)の観測結果についてご紹介します。5年10年後の未来のために、今から温室効果ガス(GHG)データを残すことをはじめましょう。

この記事で分かること
✓「二季」と呼ばれる日本の暑く長い夏
✓人工衛星「いぶき」(GOSAT)の温室効果ガス(GHG)観測技術
✓CO₂の年平均濃度、年増加量ともに右肩上がり
✓はじめの一歩をEcoLumeではじめてみませんか

「二季」と呼ばれる日本の暑く長い夏

新語・流行語大賞のトップテンに、「二季(にき)」が選ばれました。二季とは、地球温暖化の影響で春夏秋冬の四季が、夏と冬に二季化している状況のことです。5月ゴールデンウィークに真夏日のようになったり、10月を過ぎても厳しい残暑が続いたり、地球温暖化に伴う異常気象を指す新しい言葉として使われています。三重大学の研究によると、1982年から2023年の42年間で日本の夏の期間が約3週間長くなり、春秋は短くなっているとのこと。

実際に2025年夏は、日本の統計開始以来最も暑い夏となり、国内観測史上最高の41.8度を記録し、猛暑日地点数(黄色棒グラフ、2025年9385地点)と40℃以上地点数(オレンジ棒グラフ、2025年30地点)が過去最多となりました。これまでの当コラムでも紹介しているとおり、この地球規模の気象変動問題に向けて、世界各国が2050年までにカーボンニュートラルを目指して活動しているのはご存じのとおりです。

出典:環境省 脱炭素ポータル 2025年夏の記録的高温の要因とは?~気象庁異常気象分析検討会による分析結果の概要~

カーボンニュートラルとは、CO₂をはじめとする温室効果ガス(GHG)の「排出量」と植林や森林管理などの「吸収量」が均衡である状態のことを意味しています。つまり、排出量から吸収量を差引きして、実質的にゼロにすることになります。温室効果ガス(GHG)の排出量を削減するために、温室効果ガス(GHG)の排出量をモニタリングしようというのがカーボンフットプリント(CFP)の基本的な考え方です。

ただし、カーボンフットプリント(CFP)を算定するためには、ライフサイクルフロー図を使って算定範囲を決めて、製品の原材料や用役・廃棄などの活動量データを収集し、排出係数を掛け算して、全て積上げることで1つの製品を算定することができます。さらにサプライヤーから一次データを入手したり、循環製造や副生品に対する配分などを考慮すると複雑な計算と手間・時間が必要となります。さらに企業ごと、国ごとの温室効果ガス(GHG)の排出量を把握するには、もっと時間がかかります。

ミクロな視点でCFPを積上げをするだけでなく、マクロの視点で地球規模で温室効果ガス(GHG)をモニタリングできないだろうか? 例えば、温室効果ガス(GHG)は増加傾向にあるのか、減少傾向にあるのか?という問いです。今回のコラムはそこを深掘りします。

参考資料
「現代用語の基礎知識」選T&D保険グループ新語・流行語大賞 第42回 2025年 授賞語
https://www.jiyu.co.jp/singo/
気象庁 2025年夏の記録的高温の要因とは? 
https://ondankataisaku.env.go.jp/carbon_neutral/topics/20251023-topic-80.html
環境省 脱炭素ポータル カーボンニュートラルとは 
https://ondankataisaku.env.go.jp/carbon_neutral/about/
BIPROGY-GX コラム集 
https://biprogy-gx.com/column/

人工衛星「いぶき」(GOSAT)の温室効果ガス(GHG)観測技術

日本の人工衛星「いぶき」(GOSAT)は世界初の温室効果ガス観測技術衛星です。2009年に1号機「いぶき」(GOSAT)、2018年に2号機「いぶき2号」(GOSAT-2)が打ち上げられ、2台体制で15年分以上のデータを蓄積しています。さらに2025年に3号機温室効果ガス・水循環観測技術衛星(GOSAT-GW)が打上げられました。

GOSATは約100分で地球を一周しており、2つのセンサー(1)温室効果ガス観測センサ(2)雲・エアロソルセンサを使って地表面や大気から届く赤外線を観測します。二酸化炭素(CO₂)とメタン(CH4)は、ある特定の波長の光を吸収する性質があります。温室効果ガス観測センサは、通過した光の吸収度合いにより、二酸化炭素(CO₂)とメタン(CH4)の量を算出することができます。

参考資料
JAXA 地球の呼吸を継続観測する「GOSATシリーズ」
https://www.satnavi.jaxa.jp/ja/news/2025/07/25/11226/index.html
国立環境研究所 GOSATのセンサと観測方法
https://www.gosat.nies.go.jp/about_%ef%bc%92_observe.html
国立環境研究所 GOSATデータの解析方法
https://www.gosat.nies.go.jp/about_3_analysis.html

CO₂の年平均濃度、年増加量ともに右肩上がり

JAXA、国立環境研究所、環境省が温室効果ガス観測技術衛星「いぶき」(GOSAT)の観測データを公開しています。CO₂年平均濃度(黒折れ線グラフ)は後右肩上がりに上昇し、2010年の388ppmから2024年421ppmを越えました。また、CO₂年増加量(赤棒グラフ)は過去14年の平均は2.4ppm/年でしたが、2024年は3.5ppmとなり過去最高(2016年3.1ppm)を上回りました。リンク先のグラフを参照してください。
 出典:JAXA プレスリリース・記者会見等 地球全体の二酸化炭素濃度の年増加量が過去14年間で最大に〜いぶき(GOSAT)による2024年の観測速報〜
 https://www.jaxa.jp/press/2025/02/20250206-1_j.html

日本初の衛星データプラットフォーム「Tellus(テルース)」は、さらに細かい観測データを公開しています。CO₂月別平均濃度(赤折れ線グラフ)は季節変動の影響で波形の折れ線になっているものの、右肩上がりは変わらず。CO₂年平均濃度(青折れ線グラフ)は先に紹介したデータと同じく直線的に右肩上がりです。

出典:Tellus IBUKI GOSAT/GOSAT-2

また、「Tellus」は宇宙xITで新しい価値を創造するというビジョンの元、衛星データを無償かつ商用利用についての制限なく提供しています。いぶきの観測データそのものに加えて、温室効果ガスの時系列や地域別での増減を可視化するツールも公開しています。興味があればダウンロードして使って見てください。温室効果ガスについて新たな気づきが得られるかもしれません。

JAXA 地球全体の二酸化炭素濃度の年増加量が過去14年間で最大に〜いぶき(GOSAT)による2024年の観測速報〜
https://www.jaxa.jp/press/2025/02/20250206-1_j.html
Tellus IBUKI GOSAT/GOSAT-2 温室効果ガス観測技術衛星「いぶき」(GOSAT)シリーズのデータを提供
https://www.tellusxdp.com/ja/catalog/data/gosat-promotion/
宇畑 なぜ日本初衛星データPF「Tellus」のデータビジネスに期待が集まるのか 
https://sorabatake.jp/457/

はじめの一歩をEcoLumeではじめてみませんか

本コラムではマクロの視点で地球規模で温室効果ガス(GHG)について見てきました。いきなり地球規模で温室効果ガス(GHG)を削減することは、とても難しいです。ただし、諦める必要はありません。千里の道も一歩からの格言にあるとおり、まずは自社の組織や製品のGHG排出量を把握していきましょう。スモールステップから始めることがとても重要です。

今後、カーボンニュートラルが実現できれば、温室効果ガス(GHG)の排出量と吸収量が均衡になり、先に紹介したグラフを変えることができます。CO₂年平均濃度が一定になり、黒折れ線グラフが右肩上がりから水平に変わることになります。また、CO₂年増加量がゼロになり、赤棒グラフが0付近の高さに変化します。

人間が健康で長生きするためダイエットする時に、毎日体重計に乗って体重を把握します。それと同じように、地球が持続可能な環境を維持するため、温室効果ガスをCFP算定して増減を把握する必要があります。温室効果ガス排出量を把握することが、環境負荷軽減・循環型経済への取組みにつながります。

CO₂が無色透明なため、一般的に温室効果ガス(GHG)の排出量は目に見えません。普段の生活や仕事で温室効果ガス(GHG)が排出されていることや、増加されていることは実感することが難しいです。そこで製品ひとつひとつの原料採掘、製造、輸送、使用、廃棄、リサイクルにわたるライフサイクル全体での温室効果ガス(GHG)の排出量を計算する手法がCFP算定になります。そのCFP算定を総合的に支援するサービスがEcoLumeです。算定支援コンサルティング・算定業務代行・算定システムの3つのサービスがあり、CFP算定が難しい化学業界の課題を解決することができます。

今回「いぶき」(GOSAT)の観測データについて紹介し、過去15年でCO₂排出量が右肩上がりなことが判りました。これは15年前に人工衛星を打ち上げ、地球規模での観測を始めたことで得られた知見です。次は我々が5年10年先の2030年2050年の未来に向けて、企業全体や組織全体を把握する最初の一歩として、今からひとつの製品の温室効果ガス(GHG)の算定から始めてみませんか? EcoLumeなら簡単に始めることができます。

残念ながら過去のデータは変える事ができません。しかし、未来のデータは変えることができます。5年後10年後に改めて「いぶき」(GOSAT)の観測データで答え合わせをしましょう。5年後10年後、「一季(いっき)」地球温暖化の影響で春夏秋冬の四季から春秋冬が三つの季節がなくなり夏だけの一季化しているという新しい言葉が、新語・流行語大賞にノミネートされないように。

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